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大阪地方裁判所 昭和45年(行ウ)115号 判決

大阪市南区阪町三九番地

原告

田中俊次

右訴訟代理人弁護士

黒田喜蔵

黒田登喜彦

大阪市南区高津町七番丁二五番地

被告

南税務署長

北中善雄

右指定代理人

検事 河原和郎

法務事務官 秋本靖

大蔵事務官 黒木等

井上修

清原健二

主文

被告が原告の昭和四三年分所得税について昭和四四年一一月一〇日付でした、総所得金額を六〇七万二、一四七円とする更正(但し再更正により減額された後の金額)は総所得金額五九六万七、一四七円を超える限度において、過少申告加算税の賦課決定は総所得金額五九六万七、一四七円を基礎として算出した税額を超える限度において、いずれもこれを取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は五分し、その四を原告の、その余を被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

1. 主文第一項掲記の所得税の更正のうち総所得金額一〇二万九、四二三円を超える部分および過少申告加算税の賦課決定を取消す。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二、被告

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原告は大阪市南区阪町三九番地において酒類小売業を営むものであるが、昭和四三年分所得税につき、昭和四四年三月一四日被告に対し総所得金額を一〇二万九、四二三円、所得税額を六万四、四〇〇円として確定申告をしたところ、被告は同年一一月一〇日総所得金額を一、〇五九万九、六四七円、所得税額を四一二万六、五〇〇円とする更正(以下本件更正という)および過少申告加算税二〇万三、一〇〇円の賦課決定をし、その頃これを原告に通知した。

原告は同年一二月二日被告に対し異議申立をしたが、昭和四五年一月六日棄却され、その頃被告からその旨の通知を受けたので、同年二月四日大阪国税局長に審査請求をしたところ、国税不服審判所長は同年九月三〇日これを棄却する旨の裁決をし、同年一〇月一七日原告にその旨通知した。

その後被告は昭和四七年三月二二日総所得金額を六〇七万二、一四七円、所得税額を一八七万八、九五〇円とする再更正および過少申告加算税額を九万〇、七〇〇円とする更正をし、その旨原告に通知した。

2. しかし、原告の総所得金額は確定申告のとおり一〇二万九、四二三円であるから、本件更正のうち右金額を超える部分および過少申告加算税の賦課決定の取消を求める。

二、請求原因に対する被告の認否

請求原因1の事実は認めるが、2については次のとおりである。

三、被告の主張

1. 原告の昭和四三年分所得税の総所得金額およびその所得別の内訳は、次のとおりである。

事業所得 五三二万六、三五四円

酒類小売 八六万〇、九三〇円

営業補償 四四六万五、四二四円

不動産所得(損失) 五七万〇、八八二円

給与所得 五二万五、三七五円

一時所得 七九万一、三〇〇円

総所得金額 六〇七万二、一四七円

2. 右各所得のうち、営業補償による事業所得および一時所得の発生原因等は、次のとおりである。

(一)  原告は大阪市南区阪町四〇番地の三宅地八坪五勺、同番地の七宅地二〇坪(以下本件土地という)およびその地上にある木造瓦葺二階建店舗兼住宅延面積七七・九八平方メートル、木造瓦葺二階建住宅延面積六七・九一平方メートル(以下本件建物という)を所有して居住し、父である田中寅次郎が右店舗で営む酒類小売業を手伝つていたが、昭和四三年六月四日寅次郎が死亡したので、右事業を引継ぎ、これを営んでいた。

大阪市は都市計画事業(大阪市高速電気軌道第五号線)の用地として、本件土地を買収し、その地上物件の移転を求めることとなり、原告は大阪市との間で、昭和四三年六月五日寅次郎名義で補償金を一、五五一万〇、四〇〇円とする立退契約を締結し、翌六日原告名義で本件土地につき代金を二、一九九万六、一一七円とする売買契約および補償金を四五二万六、一〇〇円とする本件土地上の物件の移転契約を締結し、大阪市から右金員の支払を受けた。

そして右補償金等の内訳は別紙明細表記載のとおりである。

(二)  原告が寅次郎名義で大阪市から支払を受けた別表7の営業補償金六〇八万七、〇〇〇円は、原告の事業所得にかかる収入金額に算入されるべきものである。けだし、右営業補償は将来店舗からの立退にともない営業を一時休止することによる収益の減少に対してなされるものであるところ、原告は寅次郎の死後その酒類小売業を引継いだものであり、したがつて右補償金は原告がその営業を休止することにより生ずる収益の減少に対する補償として支払われたことになるからである。そして右収入金額に対応する必要経費の額はない。

但し、原告は昭和四二年二月二〇日田辺アサ、串畑茂子から大阪市南区阪町三九番地乙の一宅地四八坪七合九勺、同番地の一宅地一四坪六合(以下本件新土地という)、その地上の木造瓦葺二階建旅館兼居宅延面積七四坪四合七勺および電話一本を四、九四四万四、二〇〇円で買受け、昭和四三年三月一日本件新土地上に鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付四階建店舗兼居宅および倉庫延面積二四八坪三合七勺を三、八〇〇万円で建築し、その頃ここに移転し、本件建物を取りこわした。そこで被告は「収用等の場合の課税の特例に関する所得税の取扱について」と題する昭和三九年一月二一日付国税庁長官の通達二一により、右営業補償金中一六二万一、五七六円を建物の対価補償金として取扱うこととしたので、結局営業補償金中四四六万五、四二四円が事業所得に計上されることになる。

(算定方法)

三、〇一一、五〇〇円(建物の対価補償金)×100/65(木造)=四、六三三、〇七六円(建物の再取得価額)

四、六三三、〇七六円―三、〇一一、五〇〇円=一、六二一、五七六円(対価補償金としての繰入の限度額)

六、〇八七、〇〇〇円(収益補償金)―一、六二一、五七六円=四、四六五、四二四円(事業所得としての収入金額)

(三) 別表3の動産移転補償金一〇万四、二〇〇円、5の移転雑費一〇〇万〇、八〇〇円、8の店舗移転費八万八、〇〇〇円のうち、寅次郎名義の立退契約に基く分は、その営業を引継いだ原告が立退く際に、また原告名義の移転契約に基く分は原告が本件建物を移転する際に、それぞれ発生する経費を補償する性質を有するものであるところ、原告はこれらの補償金に見合う経費を支出していないから、一時所得にかかる総収入金額に算入されるべきである。

また、別表4の仮住居費四七万九、六〇〇円は、原告が居宅移転にともない一時仮住いをすることになるため、その際発生する経費を補償する性質を有するものであるところ、原告は前記のごとく昭和四三年三月一日本件新土地上に建物を新築し、大阪市と移転契約を締結した同年六月六日以前に本件建物から移転しており、一時の仮住いをすることもなかつたから、右補償金に見合う経費を支出しておらず、したがつて一時所得にかかる総収入金額に算入される。

別表6の家賃減収補償金二一万円は、原告がその所有する本件建物の店舗を寅次郎に賃貸していたため、その店舗移転にともない移転期間中一時減少する家賃収入に対する補償という性質を有するところ、原告は寅次郎の死亡後直ちに同人の事業を引継ぎ、以後自己の店舗において事業を営んでいたのであるから、何人からも右店舗の家賃収入を得ることはないのである。したがつて右補償金は交付の性質を失つたことになるから、一時所得にかかる総収入金額に算入されるべきである。

以上合計一八八万二、六〇〇円から特別控除額三〇万円を控除した残額一五八万二、六〇〇円の二分の一に当る七九万一、三〇〇円が、一時所得の金額となる。

(四) なお、その余の補償金等についての税法上の取扱は、次のとおりである。

別表1の土地売買代金二、一九九万六、一一七円は、譲渡所得にかかる総収入金額に算入される。

別表2の建物移転補償金三〇一万一、五〇〇円は、本件建物を移転するための経費を補填する目的のものであつて、本来経費補償であるが、実際には、本件建物はその敷地である本件土地の買収にともない移転することなく取りこわされているので、右補償金は実質的には租税特別措置法(昭和四四年法律第一五号による改正前のもの、以下措置法という)第三一条第三項にいう取りこわしに対する補償金とかわるところがなく、対価補償金とみることができるから、譲渡所得にかかる総収入金額に算入される。

別表7の営業補償金のうち一六二万一、五七六円は、前記のとおり、通達に基き建物の対価補償金として取扱われるので、譲渡所得にかかる総収入金額に算入される。

別表9の借家人補償金九〇五万五、四〇〇円は、寅次郎の死亡により本件建物の店舗の賃借人たる地位を承継した相続人(長男亡田中義一の代襲相続人田中行雄、同健二、中山加代子、二男原告、長女亡水島静子の代襲相続人水島隆司、同幸雄、同清司、二女泉秀子)が大阪市に対しその持分に応じた借家権を譲渡した対価としての性質を有するものである。したがつて原告の持分(四分の一)に当る二二六万三、八五〇円は、譲渡所得にかかる総収入金額に算入される。

しかし、原告は前記のごとき金額で本件土地家屋の代替資産を取得したので、以上合計二、八八九万三、〇四三円については、措置法第三一条第一項の適用を受ける結果、課税されるべき譲渡所得の金額は発生しないことになる。

四、被告の主張に対する原告の認否および反論

1. 被告主張1は争う。原告の総所得金額一〇二万九、四二三円の内訳は、次のとおりである。

事業所得 一〇七万四、九三〇円

酒類小売 八六万〇、九三〇円

その他 二一万四、〇〇〇円

不動産所得(損失) 五七万〇、八八二円

給与所得 五二万五、三七五円

被告主張2の(一)の事実は、営業主、寅次郎名義の補償金の受領、補償金の明細を除き、認める。本件家屋で酒類小売業を営んでいたのは原告であり、寅次郎は単なる営業名義人にすぎない。

同(二)(三)は争う。

同(四)のうち、相続人および相続分は認め、その余は争う。

2. 寅次郎名義の補償金一、五五一万〇、四〇〇円は、その相続人が相続分に応じて相続すべきものであり、原告が全額取得したことを前提とする被告の主張は誤りである。

3. 原告は本件土地が都市計画事業の用地として買収されることになつたので、昭和四一年八月初頃田辺アサから本件新土地、その地上建物一棟および電話一本を代金四、九〇〇万円で買受け、昭和四二年七月頃から昭和四三年二月頃までの間に右土地上に地下一階地上四階建々物を三、八〇〇万円で新築し、本件建物を取りこわし、同年六月初頃から新築建物で酒類小売業を営んでいるのであり、大阪市から受領した土地売買代金および補償金はすべて右土地建物の買受、新築費の支払に充てられた。したがつて、その金額について所得税を課せられる理由はない。

第三、立証

一、原告

1. 甲第一号証を提出し、原告本人尋問の結果を援用

2. 乙第一号証、第二号証の二、三、五の各一、第三号証の一、第四ないし第六号証、第八ないし第一〇号証、第一四ないし第一六号証の成立を認め、その余の各乙号証の成立は不知

二、被告

1. 乙第一号証、第二号証の一、同号証の二、三の各一、二、同号証の四、同号証の五の一ないし三、同号証の六、第三号証の一、二、第四ないし第一〇号証、第一一号証の一ないし一〇、第一二ないし第一六号証を提出し、証人高野武雄、石黒憲一、伊藤勝晧の各証言を援用

2. 甲第一号証の成立を認める

理由

一、請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二、よつて、原告の昭和四三年分所得税の総所得金額について判断する。

1. 酒類小売業による事業所得八六万〇、九三〇円、不動産所得(損失)五七万〇、八八二円、給与所得五二万五、三七五円については、当事者間に争いがない。

2. その余の事業所得および一時所得について検討する。

(一)  原告が本件土地建物を所有し、そこに居住していたことは、当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第三号証の一、第四、第六、第八、第一五号証、原告本人尋問の結果によれば、原告の父寅次郎は酒類販売業の免許を受け酒類小売業を営んでいたが、戦災にあい、終戦後はその営業をやめていたこと、原告は昭和二七年頃本件土地を取得し、寅次郎の名義で同所における酒類販売業の免許を受けたうえ、本件建物で酒類小売業をはじめたこと、寅次郎は高令(明治一一年生れ)であつて宇治市に隠棲し、右営業には関与しなかつたが、その免許を寅次郎の名義で受けていたことから、寅次郎を事業者、原告を従業員ということにして寅次郎の名義で右営業による事業所得にかかる所得税の申告がなされてきたことが認められ、右認定を覆えす証拠はない。

そして寅次郎が昭和四三年六月四日死亡したこと、大阪市が都市計画事業(大阪市高速電気軌道第五号線)の用地として本件土地を買収し、その地上物件の移転を求めることとなり、原告が大阪市との間で、同年六月六日本件土地について代金を二、一九九万六、一一七円とする売買契約および補償金を四五二万六、一〇〇円とする本件土地上の物件の移転契約を結び、同月五日寅次郎の名義で補償金を一、五五一万〇、四〇〇円とする立退契約を締結し、大阪市から右売買代金および移転契約に基く補償金の支払を受けたことは、当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果によると、立退契約に基く補償金もまた全額原告が大阪市から支払を受けたことが認められる。

そうすると、原告は本件土地建物を所有し、そこに居住して、自ら酒類小売業を営んでいたものであるから、右土地の売買代金もその地上物件の移転および立退による補償金もすべて原告に帰属すべきものであり、現に原告がその支払を受けているのである。したがつて、寅次郎名義の補償金のうち四分の三は原告以外の相続人が取得すべきものであるという原告の主張は、採用できない。

(二)  証人石黒憲一の証言により真正に成立したと認められる乙第二号証の四、六、証人伊藤勝晧の証言により真正に成立したと認められる乙第一三号証、証人高野武雄、石黒憲一、伊藤勝晧の各証言によれば、大阪市ではその施行する事業に必要な土地の買収等にともなう損失の補償について一般的基準を定めており、この基準によつて補償をする建前であること、大阪市が原告と締結した前記契約における補償額も右基準に従つて算定されたものであつて、その内訳は別紙明細表のとおりであるが、その際、大阪市は酒類小売の事業者を寅次郎であるとし、同人が原告から本件建物の店舗を賃借して営業しているものとして、補償額を算定したこと、別表2の建物移転補償金、3の動産移転補償金、5の移転雑費、8の店舗移転費は、いずれも本件建物を立退きこれを移転する際に通常生ずる費用(2は建物、3、8はその他の物件の各移転費用、5は移転旅費その他の雑費)を補償する趣旨、4の仮住居費は居宅移転にともない一時仮住いする際に通常要する費用を補償する趣旨、7の営業補償は店舗の移転にともなう酒類小売業の一時休止により生ずる収益の減少を補償する趣旨のものであることが認められる。そして右2、3、4、5、7、8の補償金がその本来の趣旨以外の目的、例えば土地売買代金が低額にすぎるのを補う目的で計上されたものであることを認める証拠はない。

(三)  前顕乙第一三号証によると、別表6の家賃減収補償、9の借家人補償というのは、大阪市の定めた前記損失補償基準では、建物を賃貸している者が建物移転期間中家賃を得ることができないことによつて生ずる減収を補償し、建物賃借人がその賃借を継続することが困難となる場合新たに他の建物を賃借するために要する費用等を補償するものであることが明らかであるが、前顕乙第一五号証、原告本人尋問の結果によれば、本件建物につき原告はこれを賃貸したことがなく、寅次郎もこれを賃借したことがないことが認められる。

ところで、原告が田辺アサ等から本件新土地、その地上の建物および電話一本を買受けたことは当事者間に争いがなく、証人伊藤勝晧の証言により真正に成立したと認められる乙第一二号証、原告本人尋問の結果によれば、右売買契約を締結したのは昭和四二年二月二〇日、その代金は四、九四四万四、二〇〇円、土地の実測面積は約七二坪であり、売主は建物を取りこわして本件新土地を更地としたうえ買主に引渡す約であつたことが認められる(原告が右土地上に地下一階付四階建々物を三、八〇〇万円の費用で建築したことは当事者間に争いがない)から、右売買代金はそのほとんどが土地の価額とみることができる。したがつて本件新土地の価額は坪当り約六八万円であつたことになる。そして原告本人尋問の結果によれば、本件新土地は本件土地の近くに在るが、商業地としての立地条件において本件土地よりかなり劣り、右売買当時世評では本件土地は右価額より坪当り三〇万円位高額であるとされていたことが認められる。右事実によれば、本件土地の価額は昭和三二年二月当時坪当り九八万円前後ということになる。

ところが、成立に争いのない乙第二号証の三の一によれば、本件土地の実測面積は九四・七七平方メートル(二八坪六合七勺)であることが認められるから、原告と大阪市の間に昭和四三年六月六日締結されたその売買契約の価額は、坪当り七六万七、二一七円であり、右にみた昭和四二年二月当時の価額に比べてもかなり低いわけである。そして成立に争いのない乙第一四号証、原告本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、原告は大阪市と本件土地の売買を交渉した際、大阪市の提示した代金額が低きにすぎるとして強くその増額を要求し、大阪市の担当者はその取扱に苦慮した結果、寅次郎が本件建物(店舗)を原告から賃借して酒類小売業を営んでいるものとして、その賃貸借に関連する損失補償を検討するに至つたことが窺われる。そこで試みに本件土地の売買代金に別表6の家賃減収補償金および9の借家人補償金を加算すると三、一二六万一、五一七円となり、これを実測坪数で除すると一〇九万〇、三九一円となるが、その金額は、昭和四二年二月当時の前記価額およびその時から昭和四三年六月買収時までの地価の一般的上昇を考えると、本件土地の買収当時における世評の価額とほぼ一致するものとみて、誤りないであろう。

以上の事実に徴すると、別表6の家賃減収補償金および9の借家人補償金は実質上本件土地の売買代金の一部と解するのが相当である。

(四)  右(一)ないし(三)に基き、事業所得および一時所得の金額を算定する。

(1)  別表7の営業補償金六〇八万七、〇〇〇円は、原告の事業所得にかかる総収入金額に算入され、これに対応する必要経費はない。

但し、原告が大阪市の都市計画事業の用地として買収された本件土地上にある本件建物を移転することなく取こわしたことは当事者間に争いがないので、被告の挙示する通達にしたがうと、右営業補償金中一六二万一、五七六円が建物の対価補償金として(原告に有利に)取扱われることになり、残額四四六万五、四二四円が事業所得になる。

(2)  別表3の動産移転費一〇万四、二〇〇円、4の仮住居費四七万九、六〇〇円、5の移転雑費一〇〇万〇、八〇〇円、8の店舗移転費八万八、〇〇〇円は、前掲乙第六、第一四号証、成立に争いのない乙第五号証、証人石黒憲一の証言により真正に成立したと認められる乙第七号証、原告本人尋問の結果によると、原告が昭和四三年三月頃本件新土地上に前叙のごとく建物を新築し、本件建物からここに直接移つて営業を続け、その間右補償金に相応する費用は支出していないことが認められるので、全て一時所得にかかる総収入金額に算入される(なお前顕乙第三号証の一と別表とを対比すると、原告は確定申告において別表5の移転雑費のうち寅次郎名義分二一万四、〇〇〇円を事業所得に計上しているものと認められるが、これを事業所得にかかる収入とみるべき理由はなく、また一時所得にかかる収入として取扱う方が原告にとつて有利でもある)。

別表2の建物移転補償費は、本来経費補償の性質をもつが、被告主張のとおり、対価補償として取扱われる。

そうすると、右3、4、5、8の補償金合計一六七万二、六〇〇円から特別控除額三〇万円を控除した残額一三七万二、六〇〇円の二分の一に当る六八万六、三〇〇円が、一時所得の金額となる。

(3)  なお別表1の土地売買代金二、一九九万六、一一七円、6の家賃減収補償金二一万円、9の借家人補償金九〇五万五、四〇〇円は土地譲渡の対価、2の建物移転補償金三〇一万一、五〇〇円、7の営業補償金のうち前記一六二万一、五七六円は建物の対価補償金として取扱われ、譲渡所得にかかる総収入金額に算入されるのであるが、前記事実によれば、右金額は原告が代替資産を取得するに要した金額以下であることが明らかであるから、譲渡所得の金額は発生しないことになる(措置法第三一条)。原告は、右以外の補償金についても、収用等にともない代替資産を取得した場合の課税の特例に関する規定を適用すべきであると主張するもののようであるが、理由のないことは(二)の判示により明白であろう。

3. そうすると原告の総所得金額と所得別内訳は、次のとおりとなり、その金額を超える限度において、本件更正は違法である。

事業所得 五三二万六、三五四円

酒類小売 八六万〇、九三〇円

営業補償 四四六万五、四二四円

不動産所得(損失) 五七万〇、八八二円

給与所得 五二万五、三七五円

一時所得 六八万六、三〇〇円

総所得金額 五九六万七、一四七円

三、されば原告の本訴請求は、本件更正のうち右総所得金額を超える部分および過少申告加算税の賦課決定のうち右総所得金額を基礎として算出した税額を超える部分の取消を求める限度において正当であるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 鴨井孝之 裁判官大谷禎男は差支えにつき署名捺印することができない。裁判長裁判官 石川恭)

補償金等明細表

〈省略〉

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